第四十七回
クリスマス・アルバムの新しい定盤

2021.12.01

文/岡崎 正通

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毎年、この時期になると耳にすることになるクリスマス・アルバムには、長い間にわたって聴き継がれてきた定番作品が多くあった。もう数十年以上にわたって愛されてきたビング・クロスビーやフランク・シナトラ、ナット・キング・コール。少し前ならばマイケル・ブーブレやマライア・キャリー・・。そして2021年は、これから定番になってゆくであろう新しいクリスマス・アルバムにも耳を傾けたい。

♯163 ノラ・ジョーンズの心温まるクリスマス・アルバム

アイ・ドリーム・オブ・クリスマス/ノラ・ジョーンズ

「アイ・ドリーム・オブ・クリスマス/ノラ・ジョーンズ」
(Bluenote ⇒ UCCQ-1147)

まもなくデビュー20年になるトップ・シンガー、ノラ・ジョーンズによる最新のクリスマス・アルバム。2019年にノラが参加しているガールズ・バンド“プスン・ブーツ”によるミニ作品「ディア・サンタ」を紹介しているが(♯77)、ノラ自身によるものとしては、これが初のクリスマス・アルバムとなる。<ホワイト・クリスマス>や<ウィンター・ワンダーランド>など、おなじみのクリスマス曲だけでなく、渋いクリスマス・ナンバー、そしてノラの書き下ろしになる6つのクリスマス曲がバランス良く並んでいる。

オープニングを飾るのはノラのオリジナル<クリスマス・コーリング>。“雪が降っているのが、あなたにも見える? クリスマスが私を呼んでいるのかもしれない。もし今夜、あなたと一緒にいられたら、輝き光る暖炉の傍で、私は貴方のすべてに心を開くでしょう・・”と歌われるラブ・ソング。この曲をはじめ、ノラの作ったナンバーは、どれもハッピーで親しみ易いものばかり。ピアノもノラ自身が弾いていて、シンガー、プレイヤー、コンポーザーとしてのノラのアーティスト像も良く感じられる。ほかにもスヌーピーのテレビ・アニメ“チャーリー・ブラウンのクリスマス”の為に書かれた<クリスマス・タイム・イズ・ヒア>や、ノラならではのブルージーな感覚が生かされた<クリスマス・タイム>、そしてロックンロール・スタイルの原曲を上手くアレンジした<ラン・ルドルフ・ラン>など、バラエティにとんだ選曲で飽きることがない。

♯164 幼かった日々のクリスマスに寄せる、ホセ・ジェイムスの思い

ホセ・ジェイムスのクリスマス・タイム/ホセ・ジェイムス

「ホセ・ジェイムズのクリスマス・タイム/ホセ・ジェイムズ」
(ユニバーサルミュージック UCCU-1654)

ソウル・ミュージックやヒップ・ポップ、ジャズなどからの影響をミックスしながら、新しいボーカル・スタイルを生み出してゆく人気シンガーのホセ・ジェイムスが、2021年にリリースした最新のクリスマス・アルバム。ホセが子供の頃を過ごしたのはミネソタ州のミネアポリス。雪のミネアポリスで、夕食の時間まで雪のトンネルや雪だるまを作り、夜は一家でホリデイ・シーズンを楽しんだ幼少時代。“このアルバムで僕が大切にしたかったのは、そんなあの頃の記憶なんだ”とホセ・ジェイムスが語るように、彼の歌はどこまでも優しく、ハートフルで温かい。

オープニングを飾る<クリスマス・イン・ニューヨーク>は、ホセ自身がパートナーであるターリと一緒に書いたオリジナルで、まるで古くからあるスタンダード曲のようにメロディックで親しみやすく耳に入ってくる。続く<ジス・クリスマス>はR&Bシンガーのダニー・ハサウェイによって70年代に作られたもので、このような曲をさりげなくレパートリーに加えるあたりもホセ・ジェイムスならではのものがある。バックを受けもつのはアーロン・パークス(ピアノ)、ベン・ウィリアムス(ベース)といった現代ジャズ・シーンの先端をゆく精鋭ばかり。<ザ・クリスマス・ソング><ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス>などの名曲も、とびきりフレッシュなハーモニーで聴かせている。さらに<マイ・フェイヴァリット・シングス>にはテナー・サクスのマーカス・ストリックランドが参加。ジョン・コルトレーンが演じた同曲のバージョンをほうふつさせる力演を聴かせてくれている。

♯165 華麗なソロ・ピアノによるクリスマス・アルバム

クリスマス・ポートレイト/リック・ウェイクマン

「クリスマス・ポートレイト/リック・ウェイクマン」
(ソニーミュージック SICP-31332)

イギリスのプログレッシヴ・ロックを代表するバンド“イエス”のメンバーだったことでも知られるキーボードの魔術師、リック・ウェイクマンによって2019年にリリースされたクリスマス・アルバム。さまざまなキーボードを駆使していたバンド演奏から一転、ここではアコースティック・ピアノ一台でクリスマス・メロディーを美しく奏でている。10代の頃にはロンドンの王立音楽アカデミーに通ってピアノ教師を志したこともあるリック・ウェイクマンだけに、このようなピアノ演奏は彼の原点でもあり、いつも心の中に秘めていたものなのかもしれない。そのことを物語るように近年のリックは「Piano Portraits」「Piano Odyssey」というソロ・ピアノ作品をリリースしてきた。またクリスマス作としてはシンセサイザーも使った「Christmas Variations」があったので、彼がアコースティック・ピアノだけでクリスマス・アルバムを録音するのは、自然な流れなのかもしれない。

そんなリック・ウェイクマンのピアノ・アレンジは、どれもメロディーの持ち味を素直に浮かび上がらせていて美しい。“伝統的なクリスマス音楽やクリスマス・ソングはシンプルなメロディーをもっているので、ピアノのために完璧にアレンジすることが出来た”と語るリック・ウェイクマン。ピアノの響きを等身大に感じることのできる録音も素晴らしく、少しボリュームを上げるとリックの弾くグランド・ピアノが目の前に現れる。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。