第四十八回
新春に聴きたいアルバム

2022.01.01

文/岡崎 正通

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まだコロナが静まらない中で、今年はどんな一年になるのだろうか。音楽が日常的にあって、ライブやコンサートに行くのもごく普通の日常であった時代が戻ってほしいと誰もが思っている新年。せめて、オーディオを楽しむ時くらいは、時間を忘れて豊かな感興に浸っていたい。そんな新年に聴いてみたいアルバムを3枚挙げてみた。

♯166 良き時代のウィーンへと心を遊ばせてくれる優雅な響き

モーツァルトのカルテット・パーティ/ウェラー弦楽四重奏団

「モーツァルトのカルテット・パーティ/ウェラー弦楽四重奏団」
(Decca ⇒ Tower Records PROC-1401)

18世紀に開かれたカルテット・パーティに思いを馳せて、そのパーティを再現してみせた楽しい室内楽の名アルバム。モーツァルトの親しい友人だったスティーヴン・ストーラスというイギリスの作曲家が1784年に開いたパーティでは、当時の名作曲家が演奏者として集まったという。弦楽四重奏の第1ヴァイオリンを弾くのはハイドンで、ヴィオラを弾いたのはモーツァルトという、夢のような顔合わせ。第2ヴァイオリンはウィーン生まれのディッタースドルフで、チェロを弾くのはヴァンハル。その4人が書いた弦楽四重奏曲が1曲ずつ演奏されている。

モーツァルトの「第3番 ト長調」は初期の作品であるが、軽妙な筆使いとともに、第2楽章の愁いを帯びたメロディーがこよなく美しい。小生はコロナが起きる少し前に訪れたウィーン楽友協会の小ホールで、偶然にもこの曲を生で聴くことが出来たので、いっそう感慨深いものがある。ディッタースドルフやヴァンハルの曲はポピュラーでないものの、いずれも良き時代のウィーンへと心を遊ばせてくれる。演奏するウェラー弦楽四重奏団はウィーン・フィルのメンバーによって結成されたもので、1960年代に大活躍した名グループ。18世紀の雰囲気をそのまま伝えるかのような優雅で温かい響きに魅了される。

♯167 パイプ・オルガンとテナー・サックスが織りなすスピリチュアルな世界

メディテーション・フォー・オルガン&テナー・サクソフォン/岩崎良子&竹内直

「メディテーション・フォー・オルガン&テナー・サクソフォン/岩崎良子&竹内直」
(Somethin'Cool ⇒ ディスクユニオン SCOL-4028)

ジャズ・ピアニストとして活動を繰りひろげている岩崎良子さんは、東京の築地にある聖路加国際大学病院に併設されているチャペルの専属パイプ・オルガン奏者として、もう30年以上にもわたってパイプ・オルガンを弾き続けている。そのチャペルで録音されたパイプ・オルガンとテナー・サックスによるデュオ演奏。演奏されるのはバッハの<ゴールドベルク変奏曲>からのアリアやカンタータのメロディー。さらにはオーストリアのオルガニストで作曲家でもあるアントン・ハイラーがグレゴリオ聖歌をもとに書いた作品などの、パイプ・オルガンの響きを生かしたレパートリー。さらにジョン・コルトレーンが1960年代に作って演奏した<クレッセント>や<ワイズ・ワン>など、スピリチュアルなナンバーが挟まれる。

パイプ・オルガンとテナー・サックスという組み合わせもとても珍しいが、さらにバッハとコルトレーンが並ぶという選曲も前代未聞! それらが何の違和感もなく並んでいて、ラストの<アメイジング・グレイス>まで、ふたつの魂の交感ともいうべき素晴らしいデュオ演奏が繰りひろげられてゆく。聖路加チャペルのアコースティック空間を生かした録音も見事。荘重な広がりをもったパイプ・オルガンの響きとともに、竹内のテナーが生々しいリアリティをもった響きで捉えられていて、その絶妙なバランス感の中からパイプ・オルガンとテナーという組み合わせの面白さもくっきり浮かび上がってくる。音楽としてのユニークさはもちろんとして、オーディオ的にも興味の尽きないアルバムになっているように思う。

♯168 スーパースターどうしのハッピーなデュエット・アルバム

ラヴ・フォー・セール/トニー・ベネット&レディ・ガガ

「ラヴ・フォー・セール/トニー・ベネット&レディ・ガガ」
(ユニバーサルミュージック UICS-1380)

95歳を迎えてなおトップ・シンガーの地位に君臨するトニー・ベネットと、ファッショナブルなパフォーマンスと共に世界的な人気を誇るレディ・ガガのデュエットによる最新アルバム。ふたりの歳の差は何と60歳! トニーにとっては孫のようなレディ・ガガを迎えて、彼の歌声はいっそう若返っているようにも思えるし、いっぽうのガガも、とてものびやかな表情で歌っている。ふたりは2014年に「チーク・トゥ・チーク」を録音していて、それはアルバム・チャートでも1位に輝いたのだったが、それから7年を経てリリースされた今作は20世紀のアメリカを代表する作曲家のひとり、コール・ポーターの作品集。

ふたりのコラボレイションの楽しさは一曲目の<イッツ・ドゥ・ラヴリー>から全開。ほかにも<ナイト・アンド・デイ><ラヴ・フォー・セール><君にこそ心ときめく>(I Get A Kick Out Of You)<ドリーム・ダンシング>をはじめとする有名曲ばかり。ふたりのスーパースターを支えるバックも、曲によってジャジーなコンボからビッグ・バンド、ソフトなストリングス・オーケストラとバラエティに富んでいて、とてもゴージャス。年の差を超えて楽しげに息の合ったところをみせるふたりの歌声を耳にしていると、こちらもハッピーな空気に包まれる。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。