第二十三回
クリスマス・シーズンに聴きたい、この一枚

2019.12.01

文/岡崎 正通

とくにカトリックと繋がりが深いというわけでもないのに、クリスマスの音楽を聴くと何かおごそかで、心が洗われるような気持ちになる。おそらくは小さい頃から冬になると耳にしていたクリスマス音楽、あるいは皆で歌った讃美歌のメロディーなどが原体験になっていて、この時期になると自然に思い起こされるからなのだろう。12月に入るとCD棚から取り出して、折にふれて流していたアルバムの数々。クリスマス作品といえばフランク・シナトラやナット・キング・コール、比較的新しいものではダイアナ・クラールやマイケル・ブーブレの名盤、定盤があるけれども、そういったものとはひと味違う、大好きなアルバムをピックアップしてみた。

♯74時を超えた素朴なクリスマス・アルバム

古いドイツのクリスマス音楽

「古いドイツのクリスマス音楽」
(ハルモニア・ムンディ 日ソニーミュージック BVCD-38013~14)

16~17世紀に作られて、誰ともなく歌い継がれてきた素朴なメロディー。ドイツの地方の人々は<ホワイト・クリスマス>や<ジングル・ベル>などは、ほとんど歌わない。キラキラと華美なクリスマス・ツリーでなく、蝋燭に灯りがともされて、心温まるクリスマス・シーズンがやってくる。ヨハネス・エッカルトによって書かれた<山を越えてマリアが行く>や、ミハエル・プレトーリウスの<楽しい喜びの歌声で><東方のはるかな国より><エサイの根より>といった古典曲、讃美歌ばかりが、リュートやブロックフレーテ、ヴィオラ・ダ・ガンバなどの小編成アンサンブルをバックに歌われ、演奏される。ソプラノのエリー・アメリンクの歌声をはじめ、すべてが清々しく温かい。

1961年にドイツ・ハルモニア・ムンディに録音されたアルバムが日本でLP発売になったのは、たしか1974年のクリスマスの頃だった。そのときに買い求めてから毎年、必ずシーズンに聴くことにしている。2004年に世界初CD化の形でリリースされた国内盤は2枚組で、やはりハルモニア・ムンディのもう一枚のクリスマス作品「テルツ少年合唱団のクリスマス」とカップリングされていた。まだ国内盤カタログに載っているので、入手可能と思う。

♯75エルヴィス・プレスリーによる古典的名作

心のふるさと(His Hand in Mine)/エルヴィス・プレスリー

「心のふるさと(His Hand in Mine)/エルヴィス・プレスリー」
(ソニーミュージック SICP-5637)

ロックの王者だったエルヴィス・プレスリーのクリスマス・アルバムも何枚かあって、最初の「クリスマス・アルバム」や「イフ・エヴリデイ・ウォズ・ライク・ア・クリスマス」は、いずれもベスト・セラーを記録した。しかしここではクリスマス・アルバムとは違う“讃美歌集”というべきゴスペル・アルバムを選びたい。激しく体を揺すりながらロックンロールのヒット曲を連発していったエルヴィスは、いっぽうで幼いころから敬虔な教会音楽に親しんで、深い共感と愛情を抱いていた。

<ハウンド・ドック>や<監獄ロック>をヒットさせていた57年、エルヴィスは<谷間の静けさ><主よ導き給え>などの4曲を録音。当時EP盤でリリースされたアルバムは、エルヴィスのルーツをみせたものとして大きな話題になった。次いで60年の秋に吹き込まれた、LPとして初のセイクレット・アルバムが「心のふるさと(His Hand in Mine)」。さらに67年に「ゴールデン・ヒム(How Great Thou Art)」、71年に「至上の愛(He Touched Me)」というセイクレット・アルバムをリリースしたほか、ステージなどでもスピリチュアルな作品をとりあげて歌っていた。ロックンロールのヒット曲と同じように、バックをザ・ジョーダネアーズが受け持っているというのも嬉しい。ロックンローラーと表裏一体になっているエルヴィス・プレスリーの別な一面。<主の御手をわが胸に>や<主は求むるところを知りたもう>をはじめとする名唱ばかりで、本盤にはオリジナルの12曲に、上記57年の4曲が追加されているのも嬉しいところである。

♯76アカペラとフル・オーケストラによるゴージャスな響きに酔う

シーズン・グリーティングス/山下達郎 20thアニバーサリー・エディション

「シーズン・グリーティングス/山下達郎 20thアニバーサリー・エディション」
(ワーナーミュージック・ジャパン WPCL-11540)

クリスマス曲ばかりではないものの、毎年このシーズンになると必ず取り出してくるもうひとつの定番アルバムが、日本を代表するポップ・シンガー、山下達郎のこのアルバム。1993年にリリースされたオリジナル盤15曲のうち9曲までがアカペラによるもので、山下達郎がメイン・ボーカルだけでなくバック・コーラスまで、すべてをひとりで多重録音している。もともとクリスマス・ソングは教会では合唱で歌われることが多いので、そんなコーラス・ハーモニーの響きを耳にしているだけで、どこか敬虔な気持ちになるのが不思議といえば不思議だ。

そんな山下達郎のハーモニー・マジックは完璧で、あらためて彼の音楽性の高さにふれる思いもする。<きよしこの夜>や<ホワイト・クリスマス>を、ひとりアカペラ・コーラスで耳にする贅沢。そして5曲はストリングスを含んだフル・サイズのオーケストラを従えて歌うというゴージャスな内容。映画「わんわん物語」の中で歌われた<ベラ・ノッテ>のアカペラ・バージョン。オペラ歌手マリオ・ランツァのレコードなどでヒットした<ビー・マイ・ラヴ>やプラターズの大ヒット曲<煙が目にしみる>が、オーケストラをバックにのびやかに歌われる。さらに山下達郎の名オリジナル曲<クリスマス・イヴ>の英語によるスペシャル・バージョンと盛りだくさんの内容。本20周年スペシャル盤には、さらにボーナス・トラックが7曲も追加されている。

♯77ポップなカントリー風クリスマス

ディア・サンタ/プスンブーツ

「ディア・サンタ/プスンブーツ(ノラ・ジョーンズ~サーシャ・ダブソン~キャサリン・ポッパー)」
(ユニバーサル・ミュージック UCCQ-1116)

そして今年(2019年)の旬なアルバムの一枚が、ノラ・ジョーンズとサーシャ・ダブソン、キャサリン・ポッパーによるガールズ・バンド、プスンブーツ(Puss N Boots)の5曲入りクリスマス・ミニ・アルバムだろう。現代のカントリー・ミュージックをコンセプトに、3人によって編成された“プスンブーツ”の活動も、すでに10年以上に及んでいる。

5曲のうち4曲までがメンバーたちによって書かれたオリジナル。アコースティックな響きをもった歌声とサウンドは、とてもハッピーで温かい。そしてポップなビートに乗せて歌われる<きよしこの夜>が、うきうきするような気分を演出する。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。