第十四回
平成の30年をアルバムで振り返る ④
 忘れがたい名演の数々、その②

2019.03.01

文/岡崎 正通

Click here for English translation page...

ジャズのゴールデン・エイジといわれた“モダン・ジャズの全盛期”は、はるか遠い昔のものになってしまったが、そんな時代の伝統を継承しながら、現在もジャズの最前線で大活躍を続けているミュージシャンは数多くいる。平成という時代に思いを寄せて、この時代の名盤を振りかえってみたら、そんなジャズ・ジャイアンツたちが吹き込んだ名作品の数々に行き着いた。

♯40現役の最高峰を従えた、ゴージャスなチック・コリアの最強トリオ・アルバム

トリロジー/チック・コリア・トリオ

「トリロジー/チック・コリア・トリオ」
(ユニバーサルミュージック UCCJ-3031~33)

ピアニストのチック・コリアが2010年と2012年におこなったスーパートリオによるワールド・ツアーから、ベストと呼べる演奏をピックアップして組まれた3枚組アルバム。ベースにクリスチャン・マクブライド、ドラマーにブライアン・ブレイドという現役の最高峰を迎えて、チックが奔放に個性をみせながら、のびやかなタッチを繰りひろげてみせるのが素晴らしい。<アルマンド・ルンバ><スペイン>といったおなじみのチックのオリジナル曲。<マイ・フーリッシュ・ハート>や<いつか王子様が>をはじめとする名スタンダード。<リコーダ・ミー><ブルー・モンク>といったジャズの名曲。さらにスクリャービンの<24の前奏曲>のユニークなジャズ・アレンジから、30分にも及ぶ自作のピアノ・ソナタ<月>にいたるまで、まさに選曲も自在。どの演奏からもチックならではの尽きることのない冒険心と、表現の底に流れているロマンの香りがこぼれ出てくるようだ。

たっぷりした3枚組というボリュームとともに、ピアノ・トリオの醍醐味にひたることのできるゴージャスなアルバム。ツアーの演奏をすべてデジタル・レコーディングして、それらの中からベスト演奏を選び出すというのも、デジタル時代ならではのプロセスと言えるだろう。かかるコストだけを考えてみても、かつては考えられなかったようなことが日常的におこなわれるようになっている。これも平成の時代に飛躍的な発展をとげたレコーディング技術の進化があってのものなのかもしれない。2013年(平成25年)にリリースされた本アルバムに続いて、2018年暮れには続編ともいうべき「トリロジー2」も出ていて、こちらも内容的に甲乙つけがたいものがあった。

♯41ブランフォード~カルデラッツォによる豊穣な対話の世界

Songs of Mirth and Melancholy/ブランフォード・マルサリス

「Songs of Mirth and Melancholy/ブランフォード・マルサリス」
(Marsalis Music MARS-0015 輸入盤)

サックス奏者のブランフォード・マルサリスと、ピアニストのジョーイ・カルデラッツォが豊穣な対話を繰りひろげる。平成の30年間にあってのブランフォードは、一才年下の弟になるウィントン・マルサリスとは別の路線を歩んでいったと言ってよいが、音楽的な成果もまたウィントンは異なるものの、豊かな実りをみせていったという点では変わりない。ブランフォード・マルサリスが自分のバンドにカルデラッツォを迎えたのは1990年代の終わり頃のこと。ブランフォードの活動はカルテットが中心になっていたものの、カルデラッツォの著しい成熟ぶりをみたブランフォードが満を持してといった形で吹き込んだのが、この2010年のデュオ・アルバムだ。

タイトルにあるように、ここには音楽をプレイする喜びが溢れているとともに、全体をとおしてメランコリックな情感が流れている。安っぽい情緒ではなく、心に染みこんでくるような人間味あふれる深い情感。<ラ・ヴァルス・ケンドール>や<ホープ>などでの、溢れんばかりの抒情美は、言葉を失うほどに素晴らしい。ブランフォードの音楽の成熟ぶりがよく示されている傑作アルバムと思う。

♯42ビッグ・ネームどうしの出会いによる素晴らしいコラボレイション

メセニー~メルドー・カルテット

「メセニー~メルドー・カルテット」
(Nonesuch 104188-2 輸入盤)

1970年に彗星のようにデビューを飾って第一線を疾走し続け、平成の時代にあってもギター・ミュージックのトップ・シーンにあって、他を寄せつけない存在感をもって君臨してきたパット・メセニー。いっぽうのブラッド・メルドーは94年(平成6年)にメジャー・デビューを飾って「アート・オブ・ザ・トリオ」のシリーズを発表し、あっという間にトップ・ピアニストへと躍り出た。そんなふたりの共演アルバムとして、2006年(平成18年)にデュオを中心にした「メセニー/メルドー」が吹き込まれたのだったが、翌年にカルテットによって制作されたのが、この「メセニー~メルドー・カルテット」である。

強烈な個性をもっているふたりであるものの、ここでは互いの持ち味を尊重しつつ、十二分に個性を押し出していっている。ふたりのオリジナルばかりによるレパートリーで、どの曲も相性の良いコンビネイションに惹きつけられる。曲によってメセニーはギター・シンセサイザーを使ったり42弦ギターを弾いたりと、サウンドもとても多彩。静謐さを湛えたデュオによる4曲を含めて、ビッグ・ネームどうしのコラボレイションによる音楽の素晴らしさを満喫できる作品に仕上がりをみせている。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。