第十二回
平成の30年をアルバムで振り返る ②
 平成生まれのジャズ姫たち

2019.01.01

文/岡崎 正通

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新しい年を迎えたが、30年にわたった平成もあと数ヵ月。その間の日本のジャズ界を振りかえってみたときに、彗星のように登場してきた若手ミュージシャンたちの活躍ぶりが忘れられない。多くが女性プレイヤー! これだけの素晴らしい女性プレイヤーたちが脚光を浴びた時代だったというのも、平成ジャズの中で特記されることなのかもしれない。ここでは平成の時代に生まれて、今日のジャズ界の最前線で演奏活動を続ける3人の“ジャズ姫”にスポットを当ててみたい。やがては平成という時代も遠くなってしまうのかもしれないが、それでもこれらのアルバムは、彼女たちの確かな足跡として記憶されるものになるだろう。彼女たちにとって、これはほんの一里塚に過ぎないし、新しい時代の活躍ぶりからも目を離すことができないのはもちろんである。

♯34新世代を代表するピアニストの自信作

Somehow, Someday, Somewhere/桑原あい

「Somehow, Someday, Somewhere/桑原あい」
(T.o.m records QECT-2)

しなやかな感性とともに、豊かなイマジネイションあふれるタッチを聴かせる桑原あいは、今日のジャズ・シーンの中核をひた走る若手、気鋭のピアニスト。自由に楽想をふくらませながらスケール感をもった世界を描きあげてゆく彼女の音楽性は、一作ごとに成長を遂げていっているように思われる。2017年吹き込みの「サムハウ、サムデイ、サムホエア」は、ウィル・リー(ベース)、スティーブ・ガッド(ドラムス)という超一流のベテラン・プレイヤーとともに、ピアニスティクな個性をのびやかに発揮してみせる。これだけの大スターをバックに得て、十分に実力を発揮してみせるあたりにも、彼女の大器ぶりが見てとれる。

そんな桑原あいはヤマハ・エレクトーン・コンクールの全国大会で優勝したあと、2000年代半ばから本格的にピアノに向き合って、2012年に「フロム・ヒア・トゥ・ゼア」でアルバム・デビューした。ここでの<サムハウ・イッツ・ビーン・ア・ラフ・デイ>をはじめとする、自由な感性の飛翔をかんじさせるオリジナル曲の数々。そしてミシェル・ペトルチアーニ作<ホーム>や、ビル・エヴァンス<Bマイナー・ワルツ>などの名曲のロマンティックな展開。どれもが新世代のピアニストの代表と呼ぶにふさわしい豊かな個性を感じさせるものになっている。

♯35堂々たる風格が感じられるエレナの新作

リトル・ガール・パワー/寺久保エレナ

「リトル・ガール・パワー/寺久保エレナ」
(キングレコード KICJ-778)

ここ数年来、大きな注目をあつめてきた寺久保エレナは、若手アルト・サックスの逸材のひとり。北海道に生まれて、高校生の頃からトップ・クラスのミュージシャンたちと共演。18才でアメリカの一流リズム・セクションを得たアルバム「ノース・バード」でデビューを飾った。バークリーへの留学のあと、現在はニューヨークを中心に活動している彼女が、日本に戻った時に活動の軸にしているカルテットによって吹き込んだのが、2018年の「リトル・ガール・パワー」である。ジャズの基本言語でもあるビ・バップの伝統を、今日に体現するような演奏の数々。チャーリー・パーカーが書いた<マーマデューク>や、ジャッキー・マクリーン作<バード・リヴス>。やはりパーカーが愛奏した<ラヴァー・マン>からホレス・シルヴァー<ジューシー・ルーシー>、キャノンボール・アダレイ<イントロダクション・トゥ・ア・サンバ>などのファンキーな楽曲にオリジナルもまじえて、のびやかにプレイする。

タイトル曲<リトル・ガール・パワー>は、“女性にもっと自信をもってもらいたい。自由を与えてほしい。そして輝いてほしい”という願いを込めて書いたものだという。リーダーとしてはもちろん、コンポーザーとしても彼女の情熱が注ぎ込まれているアルバム。エレナのもっている音楽的な個性がバンド全体として表現されてゆくあたりにも、彼女の成長ぶりとリーダーとしての風格のようなものがよく示されている。

♯36躍動感あふれる気鋭ドラマーのデビュー作

Cider/川口千里

「Cider/川口千里」
(キングレコード KICJ-758)

川口千里の動画を初めてYouTubeで見たときは驚いた。驚くべきテクニックはもちろんとして、音楽そのものがキラキラ躍動して輝いている。データによれば、この動画は世界中から注目をあつめて、5000万回以上も再生されているのだという。当時の彼女は、まだ14才か15才くらいだったと思う。1997年(平成9年)生まれで、すでにロサンゼルスでの自身のライブをはじめ、2017年の“東京JAZZ”ではフィリップ・セスらを従えたトリオでメイン・ステージに登場。そうそうたるメンバーが集まるブルーノート・オールスターズでも、バンドの軸となってオーケストラをグルーヴさせる。

そんな彼女が2016年に吹き込んだメジャーからの初リーダー・アルバムが、この「Cider」。やはりフィリップ・セスがプロデュースもおこなっていて、シンプルな編成の中に“手数王”の本領を存分に発揮したドラミングの神髄が味わえる。パワフルでダイナミック! まだまだどこまで伸びてゆくのかわからない、限りない可能性をもった川口千里の、平成時代の代表作として記憶される一枚になるだろう。セスとのトリオによるライブ映像版DVD「トライアングル・ライブ」もリリースされていて、そちらでも彼女のテクニックの素晴らしさを目の当たりにすることができる。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。