第六十一回
2022年に発掘された素晴らしい演奏の数々

2023.02.01

文/岡崎 正通

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新たに発掘されて陽の目をみた、素晴らしいジャズ遺産の数々。2022年の秋から冬にかけて発掘されたヒストリカルな価値をもっている作品の中から3点をピックアップしてみた。

♯205 アーマッド・ジャマルのお洒落なトリオ・ライブ

エメラルド・シティ・ナイツ~アーマッド・ジャマル

「エメラルド・シティ・ナイツ Vol.1/アーマッド・ジャマル」
(Jazz Detective CD ⇒ キングインターナショナル KKJ-203~4, LP ⇒ LP DDJD-001~2)

アーマッド・ジャマルはジャズ・ピアノ界きってのスタイリストである。独特の“間”を生かしたお洒落なピアノ・タッチ。どんな演奏にあっても、さりげなくほどこされたアレンジや工夫を凝らしたアイディアから絶妙なグルーヴを生み出してゆく。それはジャマルならではの唯一無二のスタイルだと言ってよい。そんなアーマッド・ジャマルが1963年から66年にかけて、シアトルのクラブ“ペントハウス”で繰りひろげたステージからセレクトされた演奏が、昨年の秋に2枚組CD×2セット。LPも2枚組×2セットとして陽の目をみた。

当時30代の半ばだったジャマルのプレイは、まさに絶好調! ベースとドラムスが推進してゆくビートの上で、舞うように軽やかなフレーズを弾き上げて、ご機嫌な空間が描き出されてゆく。マイルス・デイビスも絶賛したジャマルの繊細でダイナミックなピアノ・タッチ。けっして弾き過ぎることなく、キメるところは格好よくキメるところから心地良いテンションが生まれている。多くのアルバムを出して人気ピアニストになっていたジャマルであるが、ここではライブということもあって、たっぷり演奏時間をとったプレイが繰りひろげられていて、まるでステージを目の当たりにしているような感覚になる。「1963~64」のセットには<バット・ノット・フォー・ミー>。「1965~66」のセットには<ポインシアナ>など、ジャマルのヒット・ナンバーも含まれている。発掘プロデューサーとして有名なゼブ・フェルドマンが新たに設立したJazz Detectiveレーベルからの第一弾で、クラブの雰囲気が極上にとらえられている録音も素晴らしい。

♯206 80年代マイルスの楽しさを、あらためて知る

ザッツ・ホワット・ハプンド1982-1985~ブートレグ・シリーズVol.7/マイルス・デイビス

「ザッツ・ホワット・ハプンド1982-1985~ブートレグ・シリーズVol.7/マイルス・デイビス」
(ソニーミュージック SICJ-30029-31)

「ブートレグ・シリーズ」としてリリースされ続けているマイルス・デイビスの未発表音源は、いずれも1950~70年代にかけてのものだったが、昨年リリースされた「Vol.7」には80年代マイルスの演奏ばかりが収められている。数年にわたるブランクから復帰したマイルスが吹き込んだ「スター・ピープル」「デコイ」「ユア・アンダーアレスト」などのセッションのときに収録されたものと、83年夏にモントリオールで繰りひろげられたコンサートのステージ。

当時のマイルスは、シンディ・ローパーのヒット曲<タイム・アフター・タイム>やマイケル・ジャクソン<ヒューマン・ネイチャー>などを取り上げたことでも話題になったが、それらの別テイクも入っている。さらにオリジナル・アルバムには含まれていなかったトロンボーン奏者、J.J.ジョンソンが参加しているセッションで、J.Jがのびやかなソロを繰りひろげるのも聴きもの。80分近くにもわたって壮烈なプレイが聴かれるモントリオールのライブでは、アル・フォスターとダリル・ジョーンズが生み出すファンキーなビートとともに、スリリングなフレーズを自在に吹き上げてゆくマイルスが凄い。サイドメンの好演も含めて、乗りに乗ったマイルスの圧巻のプレイ。エキサイティングなライブとスタジオ録音を含めて、80年代マイルスの面白さ、楽しさをあらためて堪能させてくれるセットになっている。

♯207 ブレッカー兄弟の壮絶なライブ

ライヴ・アット・ファブリーク・ハンブルク1987/マイケル・ブレッカー・バンド&ランディ・ブレッカー・バンド

「ライヴ・アット・ファブリーク・ハンブルク1987/マイケル・ブレッカー・バンド&ランディ・ブレッカー・バンド」
(CD ⇒ キングインターナショナル KKJ-195~6, LP ⇒ Jazzline D78102, 78112)

人気ジャズ=ファンク・グループ“ブレッカー・ブラザーズ”のリーダーとしても知られたランディ、マイケルのブレッカー兄弟。ふたりが各々のバンドを率いて1987年秋、ハンブルクのライブハウス“ファブリーク”に出演したときの熱狂的なステージが2枚組CDと、2枚組LP×2セット(計4枚)という形で、去年の秋にリリースされた。ふたつのバンドの演奏は、いずれもライブならではの迫力溢れるもので、スタジオ録音とは違う熱気をもった長いプレイが、圧倒的な凄味をもって耳に飛び込んでくる。

まずマイケル・ブレッカー・バンドは、一曲目の<ナッシング・パーソナル>からマイケルのパワーが全開! エッジの効いたサックスのトーンで、これでもかというほどに吹きまくる。マイケルの凄さを、いやが上にも見せつけられるようなプレイの数々。当時マイケルが試みていたウィンド・シンセサイザー(EWI)も使って、ステージは大きな盛り上がりをみせる。ランディ・ブレッカー・バンドのほうは、メロディアスな中にシャープな刺激をみせるランディはもちろんのこと、ボブ・バーグのエキサイティングなテナー・プレイも聴きもの。ふたりが今日の音楽界にもたらした影響力も大きなものがあるが、そんなブレッカー兄弟の素晴らしさをあらためて感じることになる、中身の濃い復刻セットである。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。