第十八回
ヴィオッティの名曲と、
 どこか懐かしさをおぼえる夏のアルバム3

2019.07.01

文/岡崎 正通

令和になって最初となる今年の夏は、どんな夏になるのだろうか。猛暑の中で、かつて夏の風物詩といえば朝顔の花や風鈴の音だったというのも遠い時代のものだったように思えてくるけれども、そんな良き時代の夏に思いをはせながら、どこか懐かしさをおぼえるようなポップ・アルバム3枚を加えた。

♯54地中海の明るい陽光が、そのまま感じられるヴァイオリンの響き

ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲 第22番/サルヴァトーレ・アッカルド

「ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲 第22番/サルヴァトーレ・アッカルド」
(伊IDIS-6650~51)

18世紀の後半から19世紀初めにかけて活躍して、ベートーヴェンやブラームスがヴァイオリン協奏曲を書いたときにも大きなインスピレイションを与えたといわれるジョバンニ・バティスタ・ヴィオッティの「第22番」。生涯に29曲のヴァイオリン協奏曲を書いたイタリアの作曲家、ヴィオッティの作品の中でも、とび抜けて有名なのが“第22番”で、その旋律の美しさは際立っている。

名手グリュミオーや、女性ヴァイオリニスト、ローラ・ボベスコの流麗な演奏が記憶にのこっているものの、最初にこの曲を耳にしたのが歌の国、イタリアのナポリに生まれた名ヴァイオリニスト、サルヴァトーレ・アッカルドの弾くRCA盤だった。地中海の明るい陽光が、そのまま感じられるヴァイオリンの響き。ヴィオッティの曲のもっている明るくて大らか歌謡性が、良く表現されている名演で、ローマ管弦楽団のサポートも、この曲にはぴったりのものがある。現在RCA盤は廃盤のままだが、上記イタリア盤で入手可能である。

♯55人生のさまざまなシーンを描くように、たっぷりと音楽が流れてゆく

オン・アン・アイランド/デヴィッド・ギルモア

「オン・アン・アイランド/デヴィッド・ギルモア」
(Sony Music SICP-31247)

プログレッシブ・ロックを代表する“ピンク・フロイド”のギタリストでボーカルのデヴィッド・ギルモアが2006年にリリースしたソロ・アルバムで、ピンク・フロイドの音楽のもっていた幻想的な響きや壮大な音楽展開を感じさせながらも、パーソナルなデヴィッドの世界が優しく語られてゆく。ゆったりと時間が流れてゆくような演奏。メロディックなシンプルさとともに、彼方へと突き抜けてゆくようなギターもまた、まぎれもない“ピンク・フロイド”の個性を形作っていたデヴィッド・ギルモアのサウンドそのものだ。

どこまでもロマンティックなタイトル曲には、デビッド・クロスビーとグラハム・ナッシュがコーラスで参加。荘厳なイントロダクションに続く、地中海の小島での記憶を歌った<オン・アン・アイランド>から、日々の終わりを綴った<ホエア・ウィ・スタート>まで、人生のさまざまなシーンを描くように、たっぷりと音楽が流れてゆく。ロック・アルバムとして隙のない高い完成度をもっていて、デヴッド・ギルモアの風格のようなものも強く感じられる名品。

♯56アート・ファーマーの詩情あふれるプレイに酔うことができる一枚

おもいでの夏/アート・ファーマー

「おもいでの夏/アート・ファーマー」
(ユニバーサルミュージック East Wind UCCJ-9177)

タイトル曲<おもいでの夏>は、いくつもの映画音楽の名作をのこした巨匠ミシェル・ルグランが同名の映画のために書いたメロディー。思春期の少年にとって生涯忘れることのできないひと夏の思い出を、ほのかな哀感をたたえたルグランのテーマ曲が詩情ゆたかに演出していっていた。そんなルグラン・メロディーは、まさにアート・ファーマーにもぴったりのものがあって、まるで彼のために書かれたような抒情美が素晴らしい。

美しいアルバム・ジャケットそのもののように、優美なアート・ファーマーの詩情あふれるプレイに酔うことができる素敵な一枚。トランペッターのアート・ファーマーは、ここでは柔らかい音色をもつフリューゲル・ホーンを吹いている。リリカルな味わいを身上にしているアートの魅力が、フリューゲルのプレイにいっそう発揮されてゆくのは言うまでもない。ほかにもボサ・ノヴァのビートに乗せてジャジーに演じられる<カーニヴァルの朝>や、バラード<アルフィー>など美しいトラックが並ぶ。

♯57スパニッシュ・タッチの味つけがなされたジョージ・ベンソンの秀作

ホワイト・ラビット/ジョージ・ベンソン

「ホワイト・ラビット/ジョージ・ベンソン」
(キングレコード CTI KICJ-2313)

スーパースターの名前をほしいままにしているギタリストのジョージ・ベンソン。彼のブレイクのきっかけは1977年のアルバム「ブリージン」がグラミー賞に輝いたことだと思うが、このアルバムは71年の録音で、まだジャズ界に名前を知られはじめた頃の作品だ。ベンソンの才能にいち早く目をつけたクリード・テイラーがプロデュースするCTIレーベルからのものなので、アルバムの完成度は高く、ベンソンのメロディックな魅力をたっぷり味わうことができる。

アコースティック・ギターのジェイ・バーリナーを加えて、軽いスパニッシュ・タッチの味つけがなされているのも聴きもの。木管とブラス・セクションのアレンジをおこなったのは名手ドン・セベスキー。いきなりトランペットのファンファーレから始まるタイトル曲は、ロック・グループ“ジェファーソン・エアプレイン”の67年のヒット曲で、サイケデリックな原作をフラメンコ風に染めあげたアイディアが秀逸である。そしてママス・アンド・パパスの大ヒット曲を哀感あふれるアレンジで仕上げた<カリフォルニア・ドリーミン>が、さらに素晴らしい。同じギタリストでベンソンの先輩にあたるウェス・モンゴメリーも同曲をタイトルにしたアルバムを吹き込んでいるが、本スパニッシュ・バージョンのほうがいっそう印象深いものがある。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。