テナー・サックスの巨人、ソニー・ロリンズがこの5月25日にニューヨーク州ウッドストックの自宅で亡くなった。享年95歳。ここ10年ほどはほとんど演奏活動をおこなっていなかったので、いつかこの日が来るとは思っていたものの、やはり訃報を聞いて“巨星堕つ”といった感を深くする。ロリンズが残した名盤は数知れず、もちろん「サキソフォン・コロッサス」(Prestige)や「ウェイ・アウト・ウェスト」(Contemporary)「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」(Bluenote)や「橋」(RCA)、「アルフィー」(Impulse)をはじめ、名作は多く存在する。ここでは近年に発掘された作品を選んで、あらためてロリンズの偉業を偲んでみたい。
「フリーダム・ウィーバー~1959ヨーロピアン・ツアー・レコーディングス/ソニー・ロリンズ」
(Resonance 日CD ⇒ KKJ-234, 日LP ⇒ KKJ-10018)
この演奏が録音された1959年の春、モダン・テナーの第一人者としてソニー・ロリンズは実力、人気ともにピークにあった。この時ロリンズは28才。逞しい音色でテナー・サックスを自在に歌わせながら、堂々たる即興プレイを繰りひろげてゆくロリンズの魅力を浴びるように感じることのできるのが、この3枚組CD(LPは4枚組)である。この頃のロリンズは編成からピアノを外したトリオによって、自由な即興の冒険へと果敢な挑戦をおこなっていっていた。
そんなトリオによるヨーロッパ・ツアーはストックホルムから始まってスイス、オランダ、ドイツを経て南フランス、エクサン・プロヴァンスのホールまで、10日間にわたって続けられた。きちんと放送局が収録しているだけあって、音質も良好。まずは有名な<セント・トーマス>から始まって<オレオ><ポールズ・パル><アイヴ・トールド・エヴリー・リトル・スター>などの代表的レパートリーが多く含まれている。いっぽう<Stay as Sweet as You are><A Weaver of Dreams><Cocktails for Two><Lazy Bird>の4曲は、これがロリンズの唯一のレコーディング・パフォーマンスになる。この年の秋からロリンズの活動は2年間のブランクを迎えることになるが、そんなブランクの半年前の演奏である点も貴重。いままで一部が海賊版で出回っていたものの、今回はバーニー・グランドマンのマスタリングによって音質が飛躍的に向上。ロリンズ本人の許可もとっての正規盤という形で2024年にリリースされた。
「ロリンズ・イン・ホランド~1967スタジオ・アンド・ライヴ・レコーディングス/ソニー・ロリンズ」
(Resonance 日CD ⇒ KKJ-1046, 日LP ⇒ KKJ-10002)
ソニー・ロリンズは1966年に「イースト・ブロードウェイ・ランダウン」(Impulse)を吹き込んだあと、72年の「ネクスト・アルバム」(Milestone)までの6年間、正規のレコーディングをおこなっていない。そんなロリンズが67年にアムステルダム近郊のヒルフェルスムのスタジオと、オランダ東部の街アーネムで開いたコンサートの演奏が2020年になって陽の目をみた。
このときロリンズは単身でオランダに渡っていて、地元を代表するベーシストのルード・ヤコブス(Ruud Jacobs)とドラマー、ハン・ベニンク(Han Bennink)がバックをつとめている。簡単なリハーサルだけで演奏がおこなわれたというが、“即断即決的な演奏と言えるかもしれないけれど、これがトリオでは最高のやり方なんだ。彼らのプレイも素晴らしく限りなくスポンティニアスな演奏が出来た。とても満足しているよ”とロリンズが語っている。<フォア><ソニームーン・フォー・トゥー><グリーン・ドルフィン・ストリート>をはじめ、こちらも大きなスケールをもったロリンズの奔放な持ち味が最高に発揮されている演奏ばかりが並んでいる。
「ホールディング・ザ・ステージ(ロードショウズVol.4)/ソニー・ロリンズ」
(Okeh ⇒ ソニーミュージック SICP-30921)
生前のソニー・ロリンズが自身の手で選んだ未発表演奏ばかりをコンパイルした“ロードショウズ・シリーズ”。そのVol.4になる本作は1996~2012年にかけてのライブ・ステージ(一曲だけは79年)からピックアップされている。“ライブ録音は後からオーバーダビングしたりして手を加えることがほとんどないし、テイクを重ねる心配をすることもない。だから僕はライブ録音が好きなんだ”とロリンズが言っている。
まさにワン&オンリー!ロリンズのワンマン・プレイの様相を呈している中でも白眉といえるのが、2001年9月15日におこなわれたボストン“バークリー・パフォーマンス・センター”での演奏。あの忌まわしい9.11テロ事件の時、ロリンズはワールド・トレード・センターから数ブロックしか離れていないアパートの自室にいた。エレベーターは動かず、暗い階段を下りて目にした悲惨な光景。4日後のコンサートをロリンズはキャンセルすることを考えたというが、周囲に励まされてバークリーのステージに立った。“みんなが事件の渦中にいて、何もかもがずっとシリアスなものに感じられた”と言っているように、ロリンズは人々の為に祈るかのように心を込めてサックスを力強く吹いてみせる。同日のライブは「ウィザウト・ア・ソング(9.11コンサート)」としてアルバム化されているが、ここでの4曲はそちらに含まれていなかったもの。甘さに流れることなく毅然と聴かせる<麗しのレイラニ>(Sweet Leilani)に続いて、さまざまなメロディーを心のおもむくままに6分近くにわたって即興的な無伴奏ソロで演じてゆくくだりは、まさにロリンズの真骨頂。晩年になってもパワフルな輝きを失うことのなかったロリンズの精髄に触れるような思いがする素晴らしいトラックになっている。
小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド Shiny Stockings にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。