第七十一回
心温まる、冬のアルバム

2023.12.01

文/岡崎 正通

あっという間に、今年も年の瀬がやってきた。争いの絶えない世界の中で、誰もがどこかに不安を抱えているような2023年の暮。せめて音楽を楽しむ心だけは、温かくもっていたい。そんなシーズンにふさわしい、最近よく耳にしている3枚のアルバムである。

♯235 実力派シンガー、サマラ・ジョイのクリスマス・アルバム

ア・ジョイフル・ホリデー/サマラ・ジョイ

「ア・ジョイフル・ホリデー/サマラ・ジョイ」
(輸入盤LP ⇒ Verve-5828569, CD ⇒ 5828568)

素晴らしい歌唱力をもった若いシンガーが生まれている中にあっても、サマラ・ジョイはもっとも注目すべき実力派のひとり。そんな彼女によって2023年のシーズンに向けてリリースされたクリスマス・アルバム。といっても6曲入りのミニCDなのだが、同時にLPもリリースされるので、できればLPで聴いてみたい。サマラ・ジョイについては、すでに2022年夏にリリースされたアルバム「リンガー・ア・ホワイル」を“第65回”で紹介している(♯218)。そちらはグラミーの“最優秀ジャズ・ボーカル作品”と“最優秀新人賞”にも輝いた素晴らしい一枚だったが、このクリスマス・アルバムでもサマラは艶のあるのびやかな歌声と細やかな表情で、クリスマス曲を完璧に歌いこなしている。

“12月には、私の愛であなたを暖めてあげる。だから、あなたもそうしてね”という<ウォーム・ディッセンバー>。ボブ・ラッセルがジュリー・ロンドンの為に書いたものなのだが、サマラ・ジョイもこの曲が大好きなのだという。<トゥインクル・トゥインクル・リトル・ミー>はシュープリームスやスティービー・ワンダーなどが歌っていたポップ・ソングで、話題のピアニスト、サリヴァン・フォートナーがサマラに寄り添うようなピアノ・タッチを聴かせている。ほかに<ザ・クリスマス・ソング><オー・ホリー・ナイト>といった名曲もとりあげられている。まさに旬のシンガーによる素敵なクリスマス・アルバム。

♯236 ソフトな歌声を聴かせるニッキ・パロットの心温まる冬のアルバム

ウィンター・ワンダーランド/ニッキ・パロット

「ウィンター・ワンダーランド/ニッキ・パロット」
(ヴィーナスレコード LP ⇒ VHJD-256, CD ⇒ VHCD-78272)

暖かい暖炉の前でプレゼントを手に微笑んでいるニッキ・パロット。彼女のアルバムも、これまでにいくつか紹介してきている(♯23♯158)。これはニューヨークのアバター・スタジオで2012年に録音された作品で、CDも発売になっているのだが、今年(2023年)9月にLP盤として新たにリマスタリングされたものがリリースされた。ニッキはオーストラリア生まれで、20代でニューヨークに渡って活躍するボーカリスト。四季折々をテーマにした曲を選んで“春”“夏”“秋”のアルバムを吹き込んでおり、これはシリーズの“冬編”ということになる。

クリスマスの曲は温かくて親しみ易いメロディーをもつものばかりで、そんな作品にソフトなニッキの歌声はぴったりのものがある。<ハブ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス><ホワイト・クリスマス>などの名曲に混じって、ルイ・アームストロングが歌っていた<クリスマス・イン・ニューオーリンズ>やエルヴィス・プレスリーで有名な<ブルー・クリスマス>なども含まれる。さらにペギー・リーが歌った<ウィンター・ウェザー>ではスキャットも披露。ベースの腕前も一流のニッキは、<マイ・フェイバリット・シングス>などで見事なベース・ソロも聴かせる。テナー・サックスに大ベテランのヒューストン・パーソンが参加。さらにニッキの2才年上の姉リサ・パロットもバリトン・サックスを吹いて、ジャジーな雰囲気をいっそう盛り上げている。“ハイパー・マグナム・サウンド”を標榜するヴィーナスレコードのLP新マスタリングは、しっかりとリアリティをもったサウンドで、アナログLPならではの極上の世界へと誘ってくれる。

♯237 ボブ・メッティが聴かせるナチュラルなピアノの響き

マイ・クワイエット・プレイス/ボブ・メッティ・トリオ

「マイ・クワイエット・プレイス/ボブ・メッティ・トリオ」
(ミューザック MZCS-1444)

やはり暖炉のあるトラディショナルな雰囲気をもった美しい部屋のジャケットからも、アルバムの暖かい雰囲気が伝わってくる。ピアニストのボブ・メッティはアメリカの東部、バージニア州アーリーズビルにある広大な牧場で静かな暮らしを送っている。プロ・ミュージシャンである彼は若いプレイヤーに音楽を教えたり、テレビやCM、映像作品のために曲を書いたりしているが、地元を出ることはほとんどない。

そんなボブが広大な牧場の中に作られたスタジオで録音したのが、このアルバム。豊かな自然に囲まれた中で生み出されるプライヴェートな音楽は、どこまでも穏やかで優しく、すべてがさりげない。2010~20年にかけて録音されたオリジナル曲の数々は環境音楽のような響きをもっていて、冬のBGMにはぴったりな感じがする。ボブ・メッティにはもう一枚、日本でのデビュー作になる「ファースト・スノウフォール」があって、まさに冬をテーマにしたソロ・ピアノ作品だったが、ここではあえてデュオ、トリオによる本作のほうをピックアップした。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。