第百四回
ジョン・コルトレーン生誕100
  ~名演を高音質アルバムで楽しむ

2026.09.01

文/岡崎 正通

今年はマイルス・デイビスだけでなく、モダン・テナー・サックスの巨人ジョン・コルトレーンの“生誕100年”にもあたっている。コルトレーンは1926年9月生まれなので、まさに今月が100年の月ということになる。彼は40才の若さで亡くなっているので、第一線で活躍したのは、わずか10年間ほどにしか過ぎない。その間にコルトレーンは休む間もなく、ひたむきに即興演奏の可能性を探求し続けて、ジャズという音楽の在り様を大きく変革させていった。コルトレーンの演奏は多くのジャズ・ミュージシャンに影響を与えただけでなく、彼が残した演奏(アルバム)の数々は、いまなお多くの人々に愛され聴き継がれていっている。何回も再発を繰り返してきた不朽の名盤の中から、近年にリリースされたオーディオ的にも興味深いアルバムを3枚、取り上げてみた。

♯334 ど真ん中からコルトレーンが飛び出してくる、“名盤”のモノラル・バージョン

至上の愛(「A Love Supreme」)/ジョン・コルトレーン

「至上の愛(「A Love Supreme」)/ジョン・コルトレーン」
(モノラル LP,輸入盤 Verve 783-7100)

60年代のジャズ界の先端に立って、疾風のように駆け抜けていったジョン・コルトレーン。常に進化を続けていた彼の演奏を、ひとつのアルバムをもって“最高”と評価することはできないが、それでもなお64年暮に吹き込まれた「至上の愛」(「A Love Supreme」)がコルトレーンの音楽のひとつのピークを記録した作品であるのは、疑いないところだろう。マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)を従えた“黄金のカルテット”による演奏。コルトレーン自身が“ささやかな神への捧げもの”と語った本作品は、承認(Acknowledgement)~決意(Resolution)~追求(persuance)~賛美(Psalm)という4つのパートからなっている。コルトレーンは特定の宗教に傾倒していたわけでないものの、インド哲学に関心をもつとともに、宗教をつうじて神の存在を信じ、深い精神世界へとのめり込んでいった。そんな生きざまによって彼の音楽はときに激しく、ときに澄みきった精神の解放をみせるかのようにスピリチュアルな色彩を強めていったのだが、それらが純粋な音楽美として見事な結実をみせているのが「至上の愛」なのである。

現在、さまざまなフォーマットで入手することのできる「至上の愛」の中でもオーディオ的に興味深いのが、昨年秋にリリースされたモノラル仕様のLP盤。「至上の愛」が世に出た60年代半ばは、まだモノラルとステレオLPが混在していた時代で、本作のオリジナルLPはモノ、ステレオの両フォーマットでリリースされた。以後はステレオが主流になり、CDもすべてステレオ仕様で、モノラルは忘れられたような存在になっていた。あらためて聴き返してみると、ステレオは左右の分離によってコルトレーンが左チャンネルに定位している。対してリーダーのテナーがスピーカーのど真ん中から飛び出してくるのがモノラル盤で、やはりコルトレーンは真ん中に定位していてほしいという思いを強くする。リマスタリングのエンジニアはライアン・スミス。これまでステレオ盤で「至上の愛」に親しんできた方にも一聴をお勧めしたい。もちろん手軽なステレオCDはUHQ仕様盤(UCCU-46055)でリリースされている。

♯335 立派な完成度をもっている初リーダー・アルバム

コルトレーン/ジョン・コルトレーン

「コルトレーン/ジョン・コルトレーン」
(Prestige ⇒ ユニバーサルミュージック UCCO-40059)

ジョン・コルトレーンにとっての記念すべき初リーダー・アルバムが、いみじくも「コルトレーン」と名付けられた本プレスティッジ盤。アルバムが吹き込まれた57年5月、コルトレーンは一時的にマイルス・デイビスのバンドを離れて、ピアニストのセロニアス・モンクのコンボの一員として活動していた。このアルバムでの彼は、コード・ハーモニーを細かく分けて吹いてゆくプレイに独自の個性を発揮。ハード・バップの枠内にありながらも、その殻を破ってゆくように冒険的な吹奏を繰りひろげてみせている。3曲にバリトン・サックスのサヒブ・シハブ(Sahib Shihab)などが加わる編成も面白いが、やはりコルトレーンのプレイは群を抜いており、大きな存在感を放っている。なかでも特記すべきは<コートにすみれを>(Violets for Your Furs)で、ここではコルトレーンの演奏を特徴づける、深い精神性をもったバラード表現の萌芽のようなものも見ることができる。コルトレーンにとってはひとつの通過点に過ぎないかもしれないが、これは立派な完成度をもっているアルバム。この7月に音質の良いUHQ仕様でCDが再発になっている。

♯336 名門クラブで繰りひろげられた圧巻のライヴ・ステージ

ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード/ジョン・コルトレーン

「ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード/ジョン・コルトレーン」
(Impulse ⇒ ユニバーサルミュージック UCCI-41002)

ニューヨークを代表するジャズ・クラブ“ヴィレッジ・ヴァンガード”で1961年11月、ジョン・コルトレーンが繰りひろげた圧倒的なステージの中から、3曲が本アルバムに収められている。コルトレーンが脳裡に刻んでいた黒人霊歌のメロディーにヒントを得たといわれる<スピリチュアル>。テナーとソプラノ・サックスをもって静謐な世界を描くコルトレーンに対して、バス・クラリネットを手にしたエリック・ドルフィーがアブストラクトなソロを繰りひろげてゆく。マッコイ・タイナーのピアノも鮮やかな<朝日のようにさわやかに>(Softly,as in a morning sunrise)。ベースとドラムスだけを従えて自由なブルース・ソロを吹き続ける<チェイシン・ザ・トレーン>。すでに定番中の定番になっているアルバムであるが、やはりこの6月にUHQCDで再リリース。この時の演奏は、4日間にわたるステージの全貌をとらえた「The Complete 1961 Village Vanguard Recordings」もリリースされており、今春には“生誕100年”に合わせて、それらをLP化した7枚組BOXも発売になっている。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。